「故郷へ送り返す儀式」実は詐欺 「望郷の会」代表ら逮捕
「決まった潮と予報の日に儀式を行えば、故郷の世界線へ送り返せる」とうたって漂着一世から金銭をだまし取ったとして、警察は5日、団体「望郷(ぼうきょう)の会」代表・汐留巴容疑者(58)ら3人を詐欺の疑いで逮捕した。入会金30万円に加え、観測の進み具合に応じた「御礼」を毎月求める仕組みで、約2年間で漂着一世ら40人超から総額約8000万円を集めていたとみられる。一方通行は制度上も物理的にも確認されていない揺らぎの性質を悪用した手口で、TDAも改めて注意を呼びかけた。
■ 「大潮の夜に、向こうへ還す」
警察によると、「望郷の会」は2024年ごろから、漂着一世を中心に「大潮と揺らぎ予報が重なる特別な夜に、代表自らが儀式を行えば、故郷の世界線へ送り返すことができる」とうたって勧誘していた。入会金30万円を支払うと「儀式候補者」の名簿に載り、その後は毎月、観測の進み具合に応じた名目で数千円から数万円の「御礼」を求められる仕組みだったという。警察は、代表の汐留巴容疑者(58)ら3人が、実際には何の儀式も行わず、金銭だけを受け取っていたとみて、詐欺の疑いで5日に逮捕した。
■ 40人超、8000万円
警察の調べでは、団体の勧誘対象は主に70代以上の漂着一世で、約2年間で40人を超える会員から総額約8000万円を集めていたとみられる。会員の多くは、既報の「開眼合宿」や「還り岸の会」の事案とは異なり、若い世代の自己啓発商法ではなく、高齢の漂着一世が「故郷に残した家族にもう一度会えるかもしれない」という望みに付け込まれた形だ。市消費生活センターには昨年度から団体に関する相談が寄せられており、「儀式の日取りを何度も延期された」「御礼の額が年々増えた」といった内容が目立っていたという。
■ 「父は、もう一度母に会えると思っていた」
被害者の一人である70代男性の家族は取材に「父は漂着一世で、亡くなった母の故郷の話をよくしていた。会に入ってから『いつか向こうへ帰れる』と本当に信じ込んでいて、止めても聞かなかった。お金のことより、最後まで希望を持たされたまま裏切られたことがつらい」と話した。別の会員の家族は「御礼の額が上がるたびに『もう少しで儀式ができる段階まで来た』と言われていたそうだ。進んでいるように見せる仕組みがよくできていた」と振り返った。
■ 「進んでいる」と見せる仕組み
警察の調べでは、「望郷の会」は会員ごとに「進行度」と呼ぶ段階を設け、御礼の額が上がるたびに進行度も上がる仕組みを取っていたという。会員には月に一度、代表の汐留容疑者が「観測結果」と称する手書きの紙を手渡しており、紙には実際には存在しない架空の測定値らしき数字が並んでいた。捜査関係者は「科学的な体裁を整えることで、会員に『前に進んでいる』と信じさせる狙いがあったとみられる」と話す。入会から儀式の実施まで平均で2年以上かかる計算になっており、長期間にわたって御礼を払い続けさせる構造だったことがうかがえる。
■ TDA「送り返しは確認されていない」
TDAは5日、改めて「揺らぎによる送り返しは、制度上も、これまでの観測事実としても一度も確認されていない」とする従来の見解を示した。担当者は「一方通行という現象の性質そのものを、望みに付け込む側が利用した形だ。どれだけ切実な望みであっても、科学的根拠のない儀式に金銭を支払う必要はない」と注意を呼びかけた。警察は、特定商取引法違反の疑いも含めて団体の実態をさらに調べる方針で、市消費生活センターは漂着一世の家族からの相談も受け付けている。


