岸辺食堂:同じ式に出る日
連載「岸辺食堂」第5回。合同成人式の試行が決まったという記事を読んだ常連客たちの反応を、深川の飲食店主が綴る回。
来年の成人式が「合同」になるらしいと聞いたのは、新聞よりも先に、常連の柊木さんの口からだった。熊系自治会の実行委員をやっている人で、店に来るたびに秋祭りの後始末の話をしていたのが、いつの間にか来年の話に変わっていた。「違う氏族の子が同じ式に出るのは、秋祭りのときから言ってた話なんだけどね」と、柊木さんはいつもの席でビールを一口飲んで言った。
隣の席にいた、うちの常連で二十歳になるという男の子が、自分には関係ない話だと思って黙々と丼を食っていたら、柊木さんが急に「あんた来年でしょ」と話を振った。男の子は箸を止めて「え、自分も出るんですか、あの式に」と間の抜けた声を出した。自分の成人式のことなど、自分の店で働くまで考えたこともなかったのだろう。こういう顔を見るのが、この仕事をしていて一番面白いところだと思う。
うちの常連には、獣人もヒトもデザインベビー世代もいる。普段は誰も気にせず同じカウンターで同じ定食を食っているのに、「式」という言葉が出ると、急にみんな自分の氏族や世代のことを考え始めるのがおかしかった。柊木さんは「べつに混ぜたいわけじゃないのよ。ただ、秋祭りで太鼓の音を一緒に聞いてた子たちが、式のときだけ別々っていうのも、なんか変じゃない、って話をしてただけ」と言った。
二十歳になるという男の子は、丼を食べ終えてから「緊張はするけど、知らない式より知ってる顔が多い式の方がいいかもしれない」とぽつりと言った。自分がその年齢だった頃、式の記憶はほとんど残っていない。柊木さんが「写真だけはちゃんと撮っておきなさいよ」と笑ったのに、男の子が「はい」とだけ答えたのが、妙に様になっていた。
来年の1月、どんな式になるのかは分からない。試行だと新聞には書いてあったし、柊木さんも「一回やってみて、だめならやめればいい」と軽く言っていた。それでも、今夜のうちの店でだけ先に、違う氏族の人間が同じ話をして笑っていたという事実は、たぶん式そのものより先に記録しておく価値がある。


