瓜二つ——揺らぎで流れ着いた男、区内に住む会社員と対面
15日未明、深川沿岸の堤防付近で言葉を持たない男性が発見され、TDAが次元境界管理法に基づき漂着民として保護した。登録手続き中に撮影された顔写真が、区内在住の会社員男性(37)と瓜二つであることが判明し、16日、TDAの管理下で二人が初めて対面した。血縁関係は確認されておらず、男性の出自も未解明のまま温存される。
■ 堤防に、言葉を持たない男
15日午前4時すぎ、深川沿岸の人気のない堤防付近を巡回していた潜行監視員が、座り込んだ男性を発見し通報した。年齢は30代から40代とみられ、着衣は季節外れの薄い布地で、呼びかけに反応はあるものの、日ノ國語はおろか、調査員が確認できたいずれの言語にも該当する発話が確認できなかったという。発見場所の約200メートル圏内では、同日未明に透過指数が短時間だけ跳ね上がる記録があり、「警戒」水準には届かないごく短い反応だったが、TDAはこれを踏まえ、男性を次元境界管理法上の漂着民として保護する手続きを取った。
記録のうえで、1975年の集団漂着以降、単独で生きた人間が漂着した事例はごくまれで、TDAの広報担当者は「平時にはほとんど起きないことが、今回起きた、という以上のことは言えない」と述べている。男性に外傷はなく、健康状態は良好。保護先の施設で、身元の手がかりとなる持ち物の確認と、基礎的な健康診断が進められている。
■ 写真が呼んだ不穏な一致
保護手続きの一環として、TDAは男性の顔写真を内部の照合用データベースに登録した。これは、行方不明者届との照合など、安全確認のための通常の事務手続きだという。16日、担当者は本紙の取材に「照合作業の過程で、区内に住む37歳の会社員男性の顔写真と、驚くほど近い一致が出た。失踪や事件との関連を疑ったわけではなく、まず当人に事実を伝え、本人の意向を確認するところから始めた」と説明した。
会社員男性は深川在住、都内の商社に勤務。本人の意向により氏名は明らかにされていない。TDAから連絡を受けた際の心境について、本人は匿名で「最初は、自分の顔を使った詐欺か何かかと思った。写真を見せられて、今度は自分が本当にこんな顔をしているのか分からなくなった」と話した。
■ 対面、言葉のない数分間
本人の同意を得て、16日午後、TDAの立会いのもと二人は施設内の一室で対面した。立会った職員によると、対面は数分間で、会話は成立しなかったが、男性(会社員)が自分の顔を指して男性(漂着民)の顔を示すと、漂着民の男性も同じ動作を返したという。「どちらも、驚いているというより、確認しているように見えた。長い時間にはしなかった」と職員は振り返った。
TDAは念のため両者の血縁関係を調べたが、遺伝的な関連は確認されていない。指紋の紋様もまったく一致せず、骨格の計測値のみが近いという結果だった。担当者は「顔立ちが近いことと、血がつながっていることは別だ、という前提をまず確認できた。それ以上のことは、今回の調査の範囲では分からない」と説明する。
■ 第153系統、持ち物だけが語るもの
男性が身につけていたのは、小さな革の巾着と、刻印のある金属製の環一つだけだった。第三鑑定センターが同位体比を分析した結果、既知の152系統のいずれとも一致せず、16日付で暫定第153系統として登録された。環の刻印は幾何学的な模様で、既報の第5窓「剣の国」の「式」の札や、暫定148系統の金属柱の記号とは、現時点で明確な類似点は見出せていない。
「人そのものに系統番号を振るわけではない。今回、系統として登録されたのは、この方が持っていた品物の素性です」とセンターの担当者は説明する。男性本人の出身世界線については、手がかりとなる発話も文字もなく、調査の方法自体が定まっていない。
■ 「安易に結びつけない」TDAの姿勢
TDAは16日の会見で、顔の一致について「見た目が近いことに、特別な意味を読み取ろうとはしない。たまたま近い系統から来た可能性も、まったくの偶然の可能性も、どちらも排除できない」と繰り返した。会社員男性は「正直、気味が悪いという気持ちはまだ消えない。でも、あの人が悪いわけじゃないのも分かっている」と話し、今後の関わりについては「TDAの手続きに従う」とだけ答えている。
男性(漂着民)の今後の処遇は、帰化や氏名の選択を含め、既報の1975年漂着民と同様の手続きに沿って進められる見通しだが、言語の手がかりがないため、通常より長い時間がかかるとみられる。出自も、対面の意味も、解明されないまま温存される。


