岸辺食堂:開いた箱の話
深川2丁目で飲食店を営む瀬能タカラの連載コラム。近所で開封された漂着物の容器の話と、常連たちの「分かってほしい派」「分からないままでいい派」の言い合いについて。
うちの店から歩いて15分ほどの第三鑑定センターで、月曜に例の容器が一つ開けられた。開封の日は店の前を報道の車が何台も通っていって、常連の一人が「今日はうちの通りが有名になる日だ」と妙に得意げだった。結果は、水に似た液体で、何が分かったのかと言えば「何も分からなかった」ということだけがはっきりした——という話を、開封の翌々日になったいまも、うちのカウンターでは飽きずに話している。
面白いのは、常連が真っ二つに分かれたことだ。片方は「せっかく開けたんだから、何か出てくると思っていたのに」という「分かってほしい派」。もう片方は「開けても分からないままだったから、むしろ安心した」という「分からないままでいい派」。今夜も両方が同じテーブルで煮物を挟んで言い合っていて、私はただ聞きながら熱燗を注いでいた。
「分からないままでいい派」の常連の言い分がいちばん腹に落ちた。「分かっちゃったら、次の話題がなくなる。うちの店の話のネタが尽きたら困るだろう」。冗談めかして言っていたが、半分は本気だと思う。この街は分からないことのおかげで、今日もカウンターが賑わっている。
商店街の投札会では、名人が新人に負けたそうだ。私は投札のルールをよく知らないが、常連の一人が「三年ぶりの黒星だって」と教えてくれた。開封の話と負けた話、どちらも今夜は同じくらいの盛り上がりで、この街の話題の重さというのは、なかなか外からは測れないものだと思う。
来月には岸渡りの二世立会人の講習が始まるらしい。うちの近所にも立会人を務めるお客がいて、「講習の申し込み、迷っている」と言っていた。分かることと分からないことが、今夜もいつもどおり混ざったまま、うちの店は変わらず、腹ごしらえの場所であり続けるだけでいい。
