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文化

岸辺の人々(10) 継ぐ、という立ち方 志方朝日さん(35)

2026年(透暦52年)9月28日 (文化部・遠野汀) English

©東亰新報

28日発表された岸渡りの二世立会人正式化(既報)を受け、認定講習の受講を検討している漂着二世の志方朝日さん(35)を訪ねた。連載「岸辺の人々」の10回目は、9回目で取り上げた一世立会人・潮田一さん(73)の側からではなく、これから立会人になろうとする二世の側から、制度の変わり目を見つめる。

■ 「継ぐ」という言葉に、まだ慣れない

志方朝日さん(35、漂着二世)は、深川で立会人を務めてきた父親の背中を見て育った。「継ぐ、って言われると、まだどこかむずがゆい。父の立会いは、父にしかできない何かだと思っていたから」。28日の正式化発表を受け、講習を受けるかどうか、この数日ずっと考えているという。

■ 「代理」という言葉に感じていた距離

これまでの制度では、志方さんのような二世が立ち会えるのは、一世が体調不良などで「代理」を必要とするときに限られていた。「代理という言葉には、本物じゃない、という響きがどうしてもあった。父の隣に立っても、自分は父の代わりでしかないんだと思っていた」。28日、二世立会いが正式な選択肢になったと聞いたとき、志方さんが最初に感じたのは安堵よりも戸惑いだったという。「急に『これは本物だ』と言われても、自分の中の準備がまだできていない」。

■ 一世との違い、二世にしかない立ち位置

一方で、志方さんは二世ならではの立ち位置についても語った。「父は漂着した本人だから、岸渡りの意味を体で知っている。自分は生まれたときからこの街にいたから、一世の証言としてではなく、受け継いだ側の言葉として立会人の役目を語れるかもしれない、とは思う」。既報の「岸辺の人々(9)」で潮田一さんが語った「あと何年立てるか」という不安に、志方さんは別の角度から答えようとしている。

■ 講習は10月、まだ迷いは残る

儀礼団体連合の認定講習は10月に第1回が予定されている。志方さんは「推薦してくれる一世が見つかるかどうかも、まだ分からない」としつつ、「父に聞いてみようと思っている。断られたら、それはそれで一つの答えだと思う」と話した。

■ 父との会話、まだ始まっていない

志方さんによると、28日の正式化発表について父親とはまだ直接話せていないという。「父は口数が少ない人で、岸渡りのことも自分から話したことはほとんどない。今度の週末、実家に顔を出すついでに切り出してみようと思っている」。子どものころ、父が立会人として着ていく紋付を畳む姿を何度も見てきたが、「あれがどういう気持ちで畳まれていたのか、聞いたことは一度もなかった」と振り返る。

■ 職場の同僚にも二世が

志方さんが勤める深川の印刷会社には、同じく漂着二世の同僚が数人いるという。既報の正式化発表を職場のニュースで見た同僚の1人は「うちも父がそろそろ厳しい歳だから、他人事じゃない」と声をかけてきたといい、「自分だけの話だと思っていたけど、同じ立場の人が案外近くにいるんだと気づいた」と話した。

■ 記者の視点

一世の証言を追いかけてきたこの連載で、初めて二世の言葉を聞いて感じたのは、「継ぐ」という言葉の重さが、継ぐ側にとっては必ずしも誇らしいだけのものではない、ということだった。制度が用意した「正式な選択肢」という言葉と、志方さんの中にある「まだ準備ができていない」という言葉の間には、埋まるまで時間のかかる距離がある。その距離こそが、この儀礼が形だけのものになっていない証拠なのかもしれない。

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