岸辺の人々(9) 立会人として、あと何年立てるか 潮田一さん(73)
岸渡りの立会人を四十年近く務めてきた潮田一さん(73、漂着一世)は、市が検討する立会人名簿制度の対象者の一人だ。一世約480人のうち体力面で立会可能なのは百数十人という既報の数字に、潮田さん自身も含まれる。連載「岸辺の人々」の9回目は、儀礼の内側から名簿制度を見つめる。
■波打ち際に、四十年近く
深川の長屋で暮らす潮田一さん(73)は、1975年の集団漂着当時22歳だった。以来、地区の岸渡り(既報、漂着系の成人儀礼)の立会人を、数えで四十年近く務めてきた。「最初に頼まれたのは30代の終わりだった。当時の立会人が体を悪くして、急に『次はお前だ』と言われた」。獣徴は一世セットの耳・瞳・尾に加え、笑うと犬歯がのぞく。
■立会人という役目
岸渡りの所作は既報のとおり、一世の言葉の口上に始まり、素足で波打ち際に立ち、両手で海水に触れて戻るという一連の動作からなる。立会人はこの間、儀礼の当事者のかたわらに立ち、所作が正しく行われたことを見届ける役目を担う。「見ているだけ、と言えばそれだけの役目です。でも、見ている人間がいなければ、儀礼は儀礼にならない」と潮田さんは言う。
■名簿制度、当事者として
市は既報のとおり、これまで地区ごとに異なっていた立会人の頼み方を仲介する「立会人名簿(仮称)」の制度化を進めており、一世約480人のうち体力面で立会が可能なのは百数十人という数字が、その根拠として繰り返し紙面に載ってきた。潮田さんはその百数十人の一人だ。「数字にされると、自分が減っていく側の人間だと分かる。悪い気はしません。むしろ、早く名簿を作ってほしいと思っています」。市はこれまで「代理」扱いだった二世の立会いを正式な選択肢とする方向で調整を進めており(既報)、潮田さんはこの点についても「うちの孫は二世です。あの子が立会人になれる制度なら、賛成しない理由がない」と話す。
■若い世代に継ぐこと
潮田さんには、二世の孫が一人いる。「継いでほしい、とは言っていない。ただ、聞かれたら答えられるようにはしている」。来春の合同成人式には簡略版の岸渡りが組み込まれる予定で(既報)、潮田さんは「簡略版だろうと何だろうと、見ている人間が必要なことに変わりはない」と話した。
■歌と儀礼、共通すること
音楽教師の岸浦汐さんが採譜した「岸の子守唄」(既報)についても、潮田さんは「あの歌も、意味を教えないまま歌い継がれている。うちの儀礼の口上も同じです。教えないことで残るものが、たぶんある」と語る。9月7日の式典で子守唄が披露された際、潮田さんは会場の後方で立ち会っていたという。「歌っているのを見ながら、自分の役目のことを考えていました」
■「あと何年」
取材の最後、潮田さんは波打ち際に立つ自分の役目について、こう付け加えた。「あと何年、立てるか分からない。分からないから、名簿を急いでほしい。急かすようで悪いんですが」。潮田さんは10月にも予定される市と儀礼団体連合の地区説明会(既報)に、地元代表の一人として出席する予定だという。
