岸八の枕:決めない枕
連載コラム「岸八の枕」第3回。「岸辺の歌」で初演した新作「窓芸」の高座裏を、落語家・柳亭岸八が振り返る。
昨夜は屋外の高座という、こちらも初めての場所で喋った。風が来ると声の届き方が変わるもので、二本目の枕あたりでようやく耳が慣れた。
新作「窓芸」は、由来を一つに決めない噺だと前にも書いたが、決めないというのは、実は決めるより難しい。客はどうしても、どれが本当かを聞きたがる。そこを、どの説も本当らしく、どの説も嘘らしく喋り分けるのが、この一年の稽古だった。
高座の袖から、白瀬さんの子守唄を聞いていた。三番だけ、対訳もないまま、それでも会場が黙って聞き入っているのが分かった。分からないものを、分からないまま聞く、という芸当は、実は噺家より歌い手のほうが上手いのかもしれない。そんなことを思いながら出番を待った。
最前列には、岸谷のばあさま(101)が座っておいでだった。式典のときと同じで、「今年は聴く係ですから」とおっしゃっていたそうだが、私の落語には笑ってくださった。あれは聴く係の仕事の範囲なのかどうか、今度お会いしたら伺ってみようと思う。
由来を決めない噺は、来年もまた同じ枕から始めるつもりでいる。決めてしまったら、それこそ一晩で終わる話になってしまうから。
