第4窓、巨獣の群れが北へ 王子の窓室、湯呑みが3センチ動いた朝
城北・王子の丘にある第4定常窓で7日早朝、第63系統「巨獣の原野」の巨獣が11頭、群れで北へ移動する様子が観測された。稼働以来最多の頭数。歩みの振動で窓室の湯呑みが3センチ動き、窓番はそれも記録した。
午前5時40分、王子の丘の窓室。夜勤の窓番(33)は、ガラスの向こうの草原が明るくなるのを待っていた。第4窓は昨年12月の稼働以来、明け方に開くことが多い。5時51分、開。草原の向こう、地平線に近いあたりに、黒い点が並んでいた。
「最初は7頭に見えた。双眼鏡で数え直したら11頭。うち2頭は小さくて、子どもだと思う」。窓番は記録用紙に「11(幼2)、北北西へ移動」と書いた。
■建物ほどの背丈、歩みは静か
第63系統の巨獣は、調査課の推定で体高25〜40メートル。首が長く、四肢は太い。草原を歩く速さは人の早足ほどで、驚くほど静かだという。「向こうの音はほとんど届かない。でも、歩みの振動は、揺らぎの膜を越えて窓室の床に来る」
7日は、それがはっきり分かる朝だった。6時12分、群れが窓の視野の中央を横切ったとき、窓台に並んだ湯呑みが、ゆっくり3センチ滑った。窓番はこれも記録した。「湯呑み、3センチ、北東へ」。調査課は稼働当初から、窓室の振動を湯呑みで見るという、あまり科学的でない方法を「参考記録」として続けている。「震度計もあります。でも湯呑みのほうが、後で読み返したとき、その朝のことをよく思い出せる」と課の担当者は言う。
■巨獣と暮らす小さな人影
第4窓で最も注目されているのは、巨獣ではなく、その足元だ。草原には低い小屋の集落が点在し、人に似た小さな影が暮らしている。7日の朝も、群れが通るのを集落の影たちが並んで見送る様子が観測された。逃げる様子はない。子どもと思われる小さな影が、巨獣の後を少し追いかけ、大人らしい影に連れ戻される場面もあった。
「共生、という言葉を使いたくなります。でも、それは向こうの事情を知らない私たちの言葉です」と課の担当者は慎重だ。「分かっているのは、集落の影が巨獣を恐れていないように見えること、巨獣が集落を踏まないこと。それだけです」
群れが北へ向かった理由も分からない。稼働以来、群れの移動は南向きが多く、北向きは今回が初めて。「季節かもしれないし、水かもしれない。向こうに季節があるのかどうかも、まだ確かめられていません」
■「見送る」窓室
群れは6時48分、視野の北端から出ていった。窓は7時5分に閉じた。窓番は記録用紙を閉じ、動いた湯呑みを元の位置に戻した。
「毎朝、向こうの朝を見ている。こっちの朝より、少し早い」。夜勤明けの窓番はそう言って、丘を下りていった。窓室の外では、王子の住宅街が、いつもの月曜の朝を始めていた。
第4窓の一般見学は現在受け付けていない(窓室が狭いため)。調査課は年内に見学用の隣室を設ける計画で、10月の市議会に補正予算を諮る。
■窓から落ちてきた「毛」
第4窓では8月、稼働以来初めての「窓漂着物」が確認されている。窓が閉じた直後、ガラスの手前の床に落ちていた長さ約1.2メートルの硬い毛で、調査課は巨獣の体毛とみて第三鑑定センターの窓班に鑑定を依頼した。センターは先週、「既知のどの生物の毛とも角質の構造が一致しない」との一次所見を出している。毛は次元境界管理法に基づき国庫帰属となり、鑑定後は第1窓の見学者向け展示に加える方針だ。
窓漂着物は5窓を合わせても年に数点しかない。「窓は見るための装置で、拾うための装置ではない。落ちてくるのは、向こうの都合です」と調査課は言う。それでも毛が落ちた朝、窓番は日誌にこう書いた。「初めて、向こうのものに触った。思ったより温かかった。気のせいだと思う」
■市議会は「隣室」の予算へ
第4窓の見学用隣室の整備費は約4,800万円で、10月の市議会に補正予算として諮られる。市議会総務委員会では「王子の丘は住宅地に近く、見学者の増加で生活道路の混雑が懸念される」との指摘が出ており、調査課は見学を1日40人、予約制とする案を示している。地元の町会長(72)は「巨獣を見に来る人が増えるのは、まあ、悪くない。うちの前の坂は急だから、転ばないでほしいだけだ」と話した。
