抜かない刀:開幕前夜
刀士・鹿目千歳の連載コラム第2回。あす開幕する「秋の五番勝負」を前に、稽古場で見た若手の緊張について。
あす、秋の五番勝負が開幕する。稽古場の片付けをしていたら、水無瀬の若い衆が一人、防具をつけたまま壁際に座り込んでいた。声をかけたら、「勝てる気がしない、とこの前も言いましたが、今もまったく変わっていません」と言う。変わらなくていい、と答えた。勝てる気がする日のほうが、むしろ危ない。
この連載を数える仕事の話から始めたが、今夜ばかりは数えられないものの話をする。緊張の大きさは数字にならない。見切りの三人の審判も、点数はつけても緊張の大きさは量らない。あの子が今夜どれだけ眠れるか、私にも分からない。
若い衆には「見切られない一本を狙うより、見切られても恥ずかしくない一本を狙いなさい」と言った。自分で言っておいて、ずいぶん偉そうだと思う。私だって都市対抗のたびに「出ない」と言い、毎回出ている。偉そうなことを言う資格があるのかは、正直あやしい。
稽古場の灯りを落とす前、若い衆はようやく腰を上げて、「明日、見ていてくれますか」と聞いてきた。見ている、と答えた。抜くところも、抜かないところも、どちらも同じ目で見ている。それだけは、数えなくても分かることだ。



