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次元調査

第3窓「粘体の沼」、合図に応えた「見張り」 次元調査課、初の意図的信号で三回連続の一致

2026年(透暦52年)10月14日 (科学部・次元調査・戸田輪) English

©東亰新報

TDA次元調査課は14日、第3窓「粘体の沼」で13日深夜に行った観測で、窓室の照明を一定のリズムで3回点滅させる初めての意図的な信号を送ったところ、既報の個体「見張り」(公式番号88-C)が、ほぼ同じリズムで体色を3回連続して変化させたと発表した。これまでの「弱い相関」はこちら側の無意識な動きに対する反応だったが、今回は意図して出した合図に対する一致で、次元調査課も「偶然とは言いにくい」と初めて踏み込んだ評価を示した。それでも「意思疎通の証明ではない」との慎重な立場は崩していない。

■ 13日深夜、初めての「呼びかけ」

第3窓「粘体の沼」は13日午後11時すぎから約100分間、開口した。次元調査課によると、窓番は開口開始から約30分が過ぎたところで、既報の個体「見張り」(公式番号88-C)が窓の前の定位置に現れたのを確認し、あらかじめ定めた手順どおりに、窓室側の照明を「2秒点灯・1秒消灯」を3回繰り返すリズムで点滅させた。これまでの観測はあくまで窓番の日常の動き(記録装置の調整や湯呑みを置く動作など)に対する反応を数えるものだったが、今回は初めて、観測のために意図して組み立てた信号を送った。

担当者は「これまでは『向こうが気づいているかどうか』を、こちらの無意識な動きへの反応から推測するしかなかった。今回はこちらから先に手を出した、という点が過去の観測と一番違う」と説明した。

■ 体色、ほぼ同じリズムで3回変化

照明の点滅に対し、見張りは1回目の点滅の直後に体色をわずかに暗く変化させ、2秒ほどで元に戻った。2回目・3回目の点滅でも同様の変化が確認され、変化の開始から元に戻るまでの時間は3回とも1.8〜2.3秒の範囲にとどまり、照明の点灯間隔とほぼ重なっていた。次元調査課の解析担当は「3回とも同じ反応が同じ間隔で起きたことは、これまでの『弱い相関』の中でも最も揃ったデータだ。偶然三回続けて同じタイミングになる可能性は、統計的に低いと言わざるを得ない」と話した。

一方で、同じ担当者は「揃ったことと、見張りが『応えている』と判断することは別の話だ」とも付け加えた。「照明の明暗という単純な環境変化に対して、生理的に同期しやすい性質があるだけという説明も、今回のデータだけでは排除できない。向こうが私たちの合図だと認識して返しているのか、単に明暗という刺激に体が揃って反応しているだけなのか、今の材料では見分けがつかない」という。

■ 第5窓とは違う扱い、慎重な線引き

既報のとおり、第5窓「剣の国」では市場の人々が窓へ札を掲げる動作が3回の開口で連続して確認され、次元調査課は「向こうが窓に気づいている兆候」を公式に認めている。今回の第3窓の結果について、担当者は「材料の性質は似ているように見えるかもしれないが、第5窓は人の形をした存在が、人の目で見てもはっきり分かる動作を繰り返した例だ。第3窓は生理的な反応なのか意図的な反応なのか自体が分かっていない生物の、体色という曖昧な指標を見ている。同じ段に並べるのは時期尚早だ」と述べ、第3窓の見解を「気づいている兆候」へ格上げすることは見送った。次元調査課は今後も第1窓・第5窓を中心的な観測対象としつつ、第3窓は週1回程度の定点観測を継続する方針に変わりはないとしている。

外部有識者検討会(座長・梶浦悦子)の事務局は、今回の結果を次回会合の資料に急ぎ追加する方針を示した。梶浦氏は本紙の取材に「意図した信号に対する反応という一歩目は重い。ただし一歩目で結論を急ぐと、これまで積み上げてきた慎重さが崩れる。次の信号テストでも同じことが起きるかを、まず確かめたい」とコメントした。

■ 窓番「手が震えた」

信号を送った窓番は匿名を条件に取材に応じ、「点滅のボタンを押す手が、柄にもなく震えた。向こうから何か返ってくるかもしれないと思って送る合図と、ただ記録のために動く合図とでは、全然違う重さがあった」と振り返った。「見張りが同じリズムで動いたのを見た瞬間は、声が出た。でもその声が出た理由を、ちゃんと説明できるようになるまでは、まだ長い道のりだと思う」とも述べた。

次元調査課は、同じ信号テストを今後複数回の開口で繰り返し、再現性を確認する方針。結果が出るまでには数週間を要する見通しだという。

■ 第3窓、観測の軌跡

第3窓は2025年6月の稼働以来、半透明の粘性生物(俗称「スライム」)を主要な観測対象としてきた。8月に体色変化と窓室の照明・動きの弱い相関が初めて統計的に確認され、9月18日深夜には見張りが境界のガラス面に最も近づき、体色が数秒間ほぼ無色化したのち細かく明滅する様子が観測された。その後の開口では同様の接近はなく、次元調査課は18日の出来事を「例外」とみる立場を維持してきた。今回の信号テストは、既報の弱い相関のデータが積み重なったことを踏まえ、次元調査課が内部の倫理委員会の了承を得て初めて実施に踏み切ったものだという。

担当者は「見張りに刺激を与えること自体に慎重論もあった。照明の点滅程度であれば向こうの生活や生態に影響を及ぼす可能性は低いと判断したが、今後も規模や頻度は最小限に留める方針に変わりはない」と説明した。第7次国際共同研究の枠組みでは第3窓のデータも共有対象になっており、共同議長国の一つであるヒンド連邦の研究者からは、今回の結果を受けて正式な共同分析の開始を求める声が強まる可能性があるという。次元調査課はなお「時期尚早」との立場を崩していないが、担当者は「国際的な関心が高まるのは避けられないだろう」と話した。

■ 第1窓・第5窓を担当する技官も注視

第1窓「灯しの街」の「光の行列」と「音」の分析を担当する柚木透技官(31)は、今回の第3窓の結果について本紙に「第1窓も第5窓も、最初は向こうの日常的な動作を見ているだけだった。こちらから何かを働きかけて初めて得られる反応というのは、調査課全体としても経験が少ない」とコメントした。柚木は第5窓の「気づいている兆候」の分析にも携わった立場から、「窓ごとに向こうの『姿』がまったく違う以上、同じ手法がそのまま使えるとは限らない。それでも、見送らずに試したという一歩は、他の窓の今後の観測方針にも参考になるはずだ」と話した。

■ 戸田輪記者の視点

窓の向こうに向けて、こちらから初めて何かを送った夜があった——そう聞いて、まず思ったのは「送れない世界のはずなのに」ということだった。もちろん一方通行の原則は揺らいでいない。送ったのは物でも人でもなく、光の点滅という、ただの合図だ。それでも、合図を送ろうと決めた人間の手が震えたという話には、この面を担当して一年余りで一番近いものを感じた。向こうが応えたのかどうかは、まだ分からない。分からないままでいいのだと、今夜は思う。

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