深川で未明に中規模揺らぎ 貨物状の漂着物3点、TDAが回収
21日午前3時40分ごろ、東亰・深川2丁目の路上で中規模の揺らぎが発生し、貨物とみられる漂着物3点が確認された。東亰次元境界観測管理局(TDA)が回収し、周辺約200メートルが約4時間立ち入り規制された。けが人はなかった。
TDAによると、揺らぎは午前3時40分12秒に観測が始まり、約90秒間持続した。透過規模は今年市内で観測されたもののうち3番目に大きく、住宅密集地での発生としては透暦49年の亀戸事案以来となる。漂着物はいずれも金属製の容器状で、最大のものは長さ約2メートル、推定重量300キロ。表面には文字列とみられる刻印があるが、「既知のどの観測記録とも一致しない」(TDA広報室)といい、3点とも同日中に亀戸の第三鑑定センターへ移送された。
発生の瞬間を捉えた市の防災カメラの映像では、街灯の光がわずかに「にじむ」ように揺れた直後、路面の約1.5メートル上に3点が現れ、ほぼ同時に落下している。TDA観測部の説明では、貨物状の漂着物が複数同時に、しかも整列した状態で透過する例は珍しく、「向こう側で積載された状態のまま移動した可能性を含めて解析する」という。
■「窓が鳴るような低い音」
現場は住宅と町工場が混在する一角で、最も近い民家までは約8メートルだった。近くに住む飲食店経営、瀬能タカラさん(41)は「窓が鳴るような低い音で目が覚めた。カーテンを開けたら、道の真ん中に見たことのない箱が並んでいて、そのまわりだけ湯気みたいなものが立っていた」と話す。「この町で育って三度目だが、慣れるものではない」。瀬能さんは漂着二世で、店には当時を知る常連も多いという。
町工場を営む男性(67)は、規制線が張られる前に窓から容器を見たといい、「荷札のような膨らみが角にあった。うちも金属加工をやってるから分かるが、あれは誰かが使うために作った物だ」と語った。深川署によると、発生直後に住民からの110番通報は11件あり、うち2件は「人が倒れている」という誤認だった。倒れているように見えたのは、最初に現場に着いた新聞配達員が路上に置いた自転車だったという。
■予報は「圏内」、避難誘導は行われず
回収作業は午前5時10分に始まった。作業には防護装備の職員12人があたり、容器を1点ずつ樹脂膜で包んだ上で、無振動台車に載せて搬出した。刻印面には触れないよう、持ち手の位置まで指定されていたという。搬出が終わったのは午前7時40分。TDAの現場責任者は「住宅地での回収は、速さより静かさを優先する。眠っている人を起こさないのも仕事のうち」と話した。
TDA予報課は20日午後9時の定時予報で、湾岸部から城東にかけて透過指数「中」を発表していた。指数「中」は屋外行動の制限を伴わないため、避難誘導は行われていない。同課は「予報圏内での発生であり、観測網は正常に機能した」としている。
一方、市議会では以前から、指数「中」の夜間帯に限って防災無線の注意喚起を行うべきだとする議論があり、今回の発生を受けて鵜飼素子市長は登庁時、記者団に「予報と住民への伝え方の間には、まだ工夫の余地がある。TDAと協議したい」と述べた。
■深川と漂着物の51年
深川地区での漂着物の確認は、記録のある透暦31年以降で今回が9件目となる。最も古い記録は住民の通報記録に残る「路上の椅子」で、最も大きなものは透暦44年に空き地へ漂着した舟形の構造物だった。地区の漂着物は生活用品が多く、研究者の間では「深川型」と呼ばれる傾向として知られる。
市史編さん室の担当者は「湾岸の漂着が原材料や生物に偏るのに対し、深川は誰かの暮らしの道具が届く。境界の向こう側にも、この町とよく似た生活圏があるのではないかという仮説は古くからあるが、検証の手段がない」と話す。町内会は過去の漂着地点に小さな金属板を埋めており、今回の現場も規制解除後に10枚目の板が加わる予定だ。
■規制線の外に「岸見物」の人垣
回収された漂着物は次元境界管理法に基づきいったん国庫帰属となる。鑑定の結果、危険性がないと判断され、かつ所有の意思を示す者が現れない場合は、公示を経て市の漂着物資料館に移されるのが通例だが、文字列刻印のある容器類は鑑定が年単位に及ぶこともある。
現場では今回も、夜明け前から規制線の外にスマートフォンを掲げる「岸見物」の人垣ができた。午前5時すぎには約80人に達し、深川署が立ち止まらないよう呼びかけた。列の中には配信機材を持ち込む姿もあり、規制線際の場所取りをめぐる小競り合いで1人が転倒する場面もあった。
■漂着物は「だれのもの」か
漂着物の国庫帰属をめぐっては、近年、制度の見直しを求める声もある。次元境界管理法の制定時、漂着物は「所有者の確認が事実上不可能」という前提で一律に国のものとされた。しかし漂着一世の高齢化が進む中、「向こう側の持ち主」の心情を代弁する立場から、儀礼団体連合は「危険性のない生活用品は、保管ではなく供養に近い扱いがあってよい」と提言している。実際、鑑定を終えた漂着物の一部は、遺失物に準じた公示期間を経て資料館で「持ち主が現れない荷物」として展示されており、展示室の芳名帳には「お預かりしています」と書き残す来館者が多いという。
境界法制に詳しい大学教授は「法は漂着物を『無主物』として処理したが、市民は一度も無主物だと思っていない。深川の花がそれを示している。制度と感情のずれは、いずれ立法で埋める必要がある」と指摘する。
瀬能さんの店は、規制が解けた午前8時から通常どおり店を開けた。「野次馬でも何でも、来たらうちの味噌汁を飲んでいけばいい。深川はそういう町です」。昼までに味噌汁は売り切れた。



