鐘方式の屋内スピーカー、全棟設置完了 犬系氏族「鐘は吠え方と同じ」
既報の揺らぎ警報伝達法「鐘方式」について、湾岸部対象マンションへの屋内スピーカー増設工事が11日、全40棟で完了した。1日に本運用が始まってからおよそ10日での完了となる。既報の深川氏族合同秋祭りで共同実行委員を務めた瀧浪悠人さん(26、犬系)は、鐘の鳴らし方に自分たちの氏族の暮らしが重なると話す。
■ 10日間で全40棟、工事完了
既報のとおり、揺らぎ警報の伝達法「鐘方式」は10月1日に湾岸3地区(潮見・深川・砂町)の防災無線へ正式に組み込まれ本運用が始まった。高層マンションの内廊下では放送が聞こえにくいという課題への対応として、既報の対象約40棟への小型スピーカー増設工事が進められていたが、区の防災担当課は11日、全40棟での設置が完了したと発表した。10月1日時点で7割だった進捗が10日間で残りを終えた形で、担当課は「予定より数日早い完了」とした。
■ 犬系氏族「鐘の数を聞き分けるのは、吠え方を聞き分けるのと同じ」
既報の深川氏族合同秋祭り(3日)で共同実行委員を務めた瀧浪悠人さん(26)は犬系の漂着二世で、港湾警備の家系に育った。鐘方式は鐘の数で揺らぎの規模を伝える仕組みだが、瀧浪さんは「うちの一族は昔から、遠くの犬の吠え方だけでその犬の機嫌や距離を聞き分ける耳を鍛えられて育つ。鐘の数を数えて意味を聞き分けるのも、原理としては同じことをしている気がする」と話す。瀧浪さんの祖父は収容施設時代の鐘を実際に聞いた世代で、「祖父は鐘の音を聞くと今でも一瞬だけ体が固まる、と言っていた。音そのものの意味と、音にまつわる記憶は、別のところにしまってあるんだと思う」と振り返った。
■ 熊系の柊木さんも「太鼓の間と同じ」
同じく共同実行委員の柊木環さん(29、熊系)も、既報の合同秋祭りで披露した熊系の太鼓の「間」の取り方と、鐘方式の鐘と鐘の間隔の聞き分け方に共通するものを感じるという。「私たちの太鼓は、次の音までの『間』の長さで気持ちを伝える。鐘方式も、鐘と鐘の間の空き方で規模の違いを伝える仕組みだと説明を受けたとき、構造がよく似ていると思った」と話した。
■ 「まど番」との通知連動、登録者は3,500人超に
既報の予報アプリ「まど番」との通知連動の試験導入(湾岸部登録者約3,200人対象)は、11日時点で登録者が約3,500人まで増えたという。区の担当課は「屋内スピーカーの完了とあわせて、アプリ側の登録も伸びている。両方を併用してもらうのが理想」と説明した。学校防災教育への追加も既報どおり10月中に順次実施される予定で、変更はない。
■ 鐘の歴史——収容施設から、半世紀越しの本運用まで
鐘方式の起源は、1975年の集団漂着後にできた収容施設の時代にある。当時、施設内での揺らぎ警報を鐘の数で伝える慣行が自然発生的に広まり、既報どおり「岸」の字を含む姓を選ぶ慣行とともに、漂着系市民の歴史の古い層を形づくってきた。収容施設が解かれた後、鐘そのものは漂着物資料館に資料として保管され、長らく防災無線に組み込まれることはなかった。既報のとおり、去年のTDA概算要求で防災無線への正式組み込みが初めて予算化され、9月3日の試験放送、そして10月1日の本運用開始を経て、半世紀を経てようやく現代の警報網に加わった形になる。区の担当課は「資料館で眠っていた音が、まさか現役の警報として戻ってくるとは、企画当初は誰も思っていなかった」と話す。
■ 子どもたちへの教え方
学校防災教育への追加も既報どおり10月中に順次進められているが、区の担当課によると、教え方には工夫がいるという。「サイレンの音の長さで覚えさせるのと同じ発想だが、鐘は数を『数える』という作業が入る分、小さい子には難しい面もある」とし、低学年向けには歌のリズムに乗せて鐘の数を覚える教材を試験導入する方針を明らかにした。瀧浪さんは「うちの子にも鐘の数を教えるとき、犬の遠吠えの回数を一緒に数える遊びから始めた。音を数えるのが怖いものじゃなくて、生活の一部だと感じてもらうのが先だと思っている」と話した。
■ 独自文化の継承と同化のあいだ
犬系・熊系それぞれの「音を聞き分ける文化」が鐘方式の受け止め方に重なるという今回の話は、既報の氏族ごとの独自文化の保存と、地域社会への同化という、社会面が長く扱ってきた緊張関係の新しい一面でもある。瀧浪さんは「氏族の文化が、市全体の防災という誰にとっても大事な仕組みと自然に結びつくのは珍しい経験だった。普段は『うちはうち、外は外』で分けて考えることが多いから」と話した。柊木さんも「熊系の太鼓は年に数回の祭りでしか披露しない。鐘方式は毎日の暮らしに関わる仕組みだから、同じ感覚が日常の中でも生きている実感がある」と語った。
■ 記者の視点
鐘の数で物事を伝えるという仕組みは、収容施設時代という重い歴史を引き継ぐものだが、それが今、氏族ごとに違う「音を聞き分ける文化」と重なって語られるようになっているのは、半世紀を経た制度の、意外な生き延び方のように見える。デジタル化が一度は置き去りにした古い仕組みが、内廊下という現代の建築の弱点をきっかけに呼び戻され、さらに氏族の暮らしの知恵と結びついていく——音の意味を伝える制度と、音を聞き分けて生きてきた人々の暮らしが、思いがけないところで手を取り合っている。





