九霧、先行解析テープに「声のような音」一人分 本人の確認はできないまま
TDAは9日、湾岸九霧事象の観測記録再解析計画のうち既報の先行解析テープ1本について、「九霧の会」月例の点呼で家族会に結果を報告した。封鎖初日の数時間を記録した音声データの中に、解析チームが「人の声に似た音」と判断した一人分の短い音の塊が含まれていたが、誰の声かを示す材料は無く、声そのものと断定する科学的根拠も無いという。行方不明12人の手掛かりを探る取り組みは、23年を経てなお未解明のまま温存される。
■ 23年目の点呼
湾岸緑道の慰霊碑前では、毎月9日の朝に「九霧の会」の「点呼」が続いている。9日もいつもどおり、遺族ら十数人が集まり、銘に「霧は晴れた。私たちは待っている」と刻まれた碑の前で名前を読み上げた。ただ今回は、いつもと違う一組が列に加わっていた。TDAと湾洋大学の解析チームである。
既報のとおり、TDAは9月24日、2003年の湾岸九霧事象で観測網が記録した磁気テープ約310巻のうち、封鎖開始直後の数時間を記録した1本を先行解析し、結果を10月9日の点呼にあわせて家族会に報告すると発表していた。具体的な内容は当日まで一切明らかにしないとしており、本紙も9日の点呼を取材した。
■ テープが示したもの
点呼のあと、慰霊碑近くの集会所で非公開の報告会が開かれ、終了後にTDA担当者が本紙の取材に応じた。担当者によると、先行解析の対象になった1本の中に、他の区間とは波形の性質が異なる短い音の塊が一か所見つかった。長さは1秒に満たない。解析チームはこれを「人の声に似た音」と評価したが、言葉として聞き取れる部分は無く、12人のうち誰の声かを示す材料も一切無いという。
担当者は「『声のような音』という言い方に、私たち自身、何度も言葉を選び直した。声だと断定できる科学的な根拠は無い。機材の振動や、当時の風、潮の音が重なって生まれた可能性も排除できていない」と述べた。解析に加わった浦戸明日香(湾洋大学)も「読めることと、分かることは別です、と以前から申し上げてきた。今回読めたのは、1秒に満たない短い音の塊が一つあった、ということだけだ」とコメントした。
■ 「声だと思う」——家族会の受け止め
報告を受けた家族会の受け止めは、本紙が確認した範囲では静かなものだった。夫(当時47・倉庫作業員)が行方不明のまま23年になる迫田佳寿子さん(70)は、報告会のあとこう話した。「分からない、という説明を、今日も丁寧にしていただいた。それでも、あの音を聞かせてもらった私たちは、声だと思う。誰の声かは分からなくても、そこに声があったと思うことを、今日は許してもらいたい」。
別の遺族(TDA観測員だった親族を持つ、匿名希望の60代男性)は「科学として断定できないのは分かる。それでも、今日この場所で聞けたことには意味があった」と語った。既報どおり迫田さんの「手続きと、待つことは、別の棚にしまってあるんです」という言葉のとおり、家族会全体が今回の報告に大きく動かされた様子は無く、点呼はいつもと同じように、短い挨拶で締められたという。
■ TDA、期待値のコントロールを改めて
TDAは会見で「期待を煽る発表ではないと重ねて申し上げてきたが、今回の結果も、何かが解決したことを意味するものではない」と改めて強調した。残る309巻の本解析は、湾洋大学との2年計画どおり進め、来年夏の中間報告を待つ方針に変更はないという。今回の先行解析結果についても、一般公表の時期・範囲は今後判断するとしている。
■ 12人の内訳、変わらぬ23年
既報のとおり、行方不明の12人は倉庫作業員5人・釣り人3人・住民2人・TDA観測員2人。遺留品は岸壁に揃えられた靴2足のみで、「透過失踪」の特例を選んだ家庭と選ばなかった家庭が今も混在する。事象の原因そのものも未解明のまま、本紙はこれまでどおり、動きがあったときに続報する。





