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科学

九霧の9日間、310巻のテープに再び針 TDAと湾洋大、23年目の再解析

2026年(透暦52年)9月2日 (社会部・真柴湊) English

TDAは1日、2003年の湾岸九霧事象の際に観測網が記録した磁気テープ約310巻を、湾洋大学と共同で再解析すると発表した。今年完了したデジタル化により、当時の技術では扱えなかった秒単位の短い変動を読めるようになったためで、計画は2年間。過去最大の透過事象でありながら、原因も12人の行方も未解明のままの「九霧」に、観測データの側から改めて向き合う初の本格的な取り組みとなる。

■霧の9日間

2003年、湾岸部を覆った霧は9日間晴れず、一帯は封鎖された。行方不明になった12人の内訳は、倉庫作業員5人、釣り人3人、住民2人、TDA観測員2人。岸壁に揃えられた靴2足のほかに、遺留品は見つかっていない。事象の後、透過指数の統計整備と観測網の拡充が進んだが、霧の原因そのものは半歩も解明されないまま23年がたつ。

今回の対象は、その9日間に観測網の各点が録り続けた磁気テープ約310巻、延べ約1,400時間分。当時の解析は計算資源の制約から時間ごとの平均値が中心で、秒から分のスケールの短い変動は、読まれないまま倉庫に眠っていた。デジタル化は3年がかりで今年6月に完了している。

■「読めることと、分かることは別」

解析には、湾岸部の指数と潮汐の相関を指摘した湾洋大学の海洋物理学者、浦戸明日香さん(39)が加わる。九霧当時の潮位・気象データとの突合も行うが、浦戸さんは予防線を張ることを忘れなかった。

「二十三年前の海と空を、初めて秒針で読み直せます。読めることと、分かることは別です。ただ、読まずに分かることは、絶対にありません」

TDAは、短周期変動の解析手法が確立すれば、現行の予報の高精度化にも応用できるとする。今週末の大潮集中観測とは「独立の計画」であり、日程が近接したのは偶然という。

■毎月九日、碑の前

発表に先立つ8月30日、TDAは行方不明者の家族会「九霧の会」に事前の説明会を開いた。会は事象以来、毎月9日に湾岸緑道の慰霊碑前で「点呼」の集いを続けている。碑の銘はこう刻む。「霧は晴れた。私たちは待っている」

世話人の迫田佳寿子さん(70)は、倉庫作業員だった夫(当時47)の帰りを待つ一人だ。説明会の後、本紙の取材にこう話した。

「二十三年間、発表という発表は全部聞きに行きました。今回もそうします。お願いしたのは一つだけです。何が分かっても、何も分からなくても、同じ場所へ報告に来てください。私たちは毎月九日、碑の前にいますから」

会には、死亡とみなさないまま一部の手続きを可能にする透過失踪の特例を選んだ家庭と、選ばなかった家庭がある。「どちらの家も、九日には同じ場所に立ちます。手続きと、待つことは、別の棚にしまってあるんです」

■「約束できるのは、読み終えることだけ」

火浦誠局長は会見で、自らの来歴に触れた。

「二十三年前、私は観測畑の課長でした。あのテープを倉庫へ運ぶ台車を、私は自分で押しています。いつか読める日が来る、と思って押したのかどうか、正直、覚えていません。ただ台車は重かった。1,400時間分の重さです」

その上で、局長はいつもの調子に戻った。「結果の約束はできません。約束できるのは、今度こそ全部読み終えることだけです」

中間報告は来年夏の予定。解析結果はすべて公表され、家族会には公表に先立って説明が行われる。

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