窓外:机の上の予報課
編集長コラム「窓外」。本紙の4コマ連載が始まるにあたり、机の上の同居人について、書いておく。
きょうから本紙に4コマが載る。主役は、私の机の上に七年住んでいる白いやつだ。名前はゆらり。読者公募で決まった名で、私は「白いの」と呼んでいる。
2019年の春、保存庫の地下で見つかった。マイクロフィルムの棚の陰に、湯呑みくらいの大きさで丸まっていた。TDAに届けると、系統不明、無害、と紙が一枚来た。登録番号は漂-2019-0417。その紙は今も机の引き出しにある。引き取り手がなく、編集部で預かることになった。以来、私の机の上が定位置になった。
頭に触角が一本ある。先が雫のかたちで、揺らぎが近いと青く光る。予報課の発表より、たいてい少し早い。TDAは「気圧を感じているのでは」と言う。私は何も言わない。新聞屋は、分からないことを分かったふりで書かない。ただ、光ったら湾岸の記者に電話するようにはしている。
喋らない。表情と、触角と、湯呑みの持ち方で、たいていのことは伝わる。湯呑みを差し出すときは茶が欲しい。触角が光って、湯呑みを差し出すときは、茶が欲しいのと揺らぎが近いのと両方だ。区別はつかない。
驚くな、確かめろ、と私は若い記者に言う。だがこの白いやつのことは、七年たっても確かめきれていない。何を食べているのかも、はっきりしない。茶と、記念日のまんじゅうと、たまに校正刷りの端を齧る。
4コマは、この街の日常の、おかしいところを描く。揺らぎのある街には、おかしいところが多い。予報を触角で先取りする生き物が新聞社の机にいることも、その一つだ。暗い話は描かない。それは記事のほうでやる。
きょうの1回目は、私が予報課に電話をかける話だという。事実である。電話をかけたのは私で、直したのは予報課で、湯呑みを差し出したのは白いやつだ。
