刀士免許秋試験、合格108人 倍率20.7倍 剣術の家系でない初の合格者も
日ノ國刀士会は26日、刀剣携行特例法に基づく刀士免許秋試験の合格者を発表した。全国2,240人が受験し合格は108人、倍率20.7倍で既報の「今年も20倍超」の見通しどおりとなった。合格者の中には、鹿目流・水無瀬流・氷室流いずれの家系にも連ならない初めての合格者が含まれており、刀士会内でも話題になっている。
■ 合格108人、倍率は今年も20倍超
日ノ國刀士会は26日、刀剣携行特例法(1994年)に基づく刀士免許秋試験の結果を発表した。全国の受験者は2,240人で、合格したのは108人。倍率は20.7倍となり、既報の「今年も20倍を超える見通し」のとおりとなった。会場別では東亰会場の受験者が612人、合格は29人で、地方の会場よりやや倍率が高い22.1倍だった。合格者には10月1日付で「特例刀登録番号」が交付され、以後は職務中に限り特例刀の携行が認められる。刀士会の事務局によれば、倍率がここ数年20倍前後で安定して推移しているのは、志望者の増加と合格枠がほぼ一定であることの両方が理由だという。
試験は筆記(制度・法規)、実技(基本動作と「見切り」の模擬判定)、面接の三段階からなる。合格者の平均年齢は24.3歳で、最年少は18歳、最年長は37歳だった。女性合格者は34人で、比率にすると約31%となり、既報の「女性刀士は約3割」という現在の構成比とほぼ重なる結果になった。
刀士免許の制度は1994年の刀剣携行特例法施行とともに始まり、今回で32回目の試験となる。累計の合格者数は延べ3,400人を超えるが、引退や死去による自然減もあり、既報のとおり現役の刀士は全国で約2,600人、東亰で約900人にとどまっている。刀士会は「合格者数の記録だけを見れば増え続けているように見えるが、実際に現場に立ち続ける人数はそう簡単には増えない」としている。
■ 剣術の家系ではない初めての合格者
合格者の中でも刀士会内で話題になっているのが、**誉田 舞(ほんだ・まい、23)**の存在だ。既報のとおり刀士は鹿目流・水無瀬流・氷室流のいずれかの流派に連なる家系の出身者が大半を占めてきたが、誉田はいずれの流派の家系にも連なっていない、確認できる限りで初めての合格者だという。会社員の家庭に育ち、大学の一般教養で受けた「刀剣携行特例法」の講義がきっかけで刀士を志したと本紙の取材に語った。
「稽古場に通い始めた最初の一年は、道具の持ち方から周りと違うと言われ続けた」と誉田は振り返る。「流派の型を持っていない分、我流にならないよう基本動作だけは人一倍やり込んだ。合格して終わりではなく、これからが本当の意味での稽古だと思っている」。刀士会の担当者は「家系の有無は受験資格に関係しないというのが制度の建前だが、実態として今回のような合格者は珍しい。今後の受験者層の広がりを占う一件として注視している」とコメントした。
■ 獣徴のある合格者は6人、免許は5年ごとの更新制
今回の合格者108人のうち、獣徴のある合格者は6人だった。うち一人、漂着二世の**沖浦 岬(おきうら・みさき、26)**は「刀士を目指す漂着系の後輩から、獣徴が判定の邪魔にならないか不安だという相談を受けることがある。今回、実技試験で特に問題にならなかったことは、後に続く人への一つの答えになると思う」と話した。刀士免許は5年ごとの更新制で、更新料は一律3万円。更新時には簡易な実技確認があり、刀士会の運営費の一部に充てられている。今回の108人が最初に更新を迎えるのは2031年になる。
■ 鹿目千歳「合格した瞬間より、抜かなかった一年一年」
連載「抜かない刀」を執筆する鹿目流当主・鹿目千歳(41)は、今回の合格発表について本紙の取材に短くコメントを寄せた。「合格した瞬間がいちばん誇らしいように見えるかもしれないが、本当に大事なのは、免許を持ってから抜かずに過ごした一年一年の方だと、私は思っている」。家系の外から来た合格者については、「流派を持たない者の方が、かえって『抜かないこと』の重みを一から考え直せることもある。誉田さんの稽古ぶりは、うちの弟子にも聞かせたいくらいだ」と評した。
■ 流派内では慎重な声も
一方で、流派内には慎重な声もある。北都の氷室流で指導にあたるベテラン刀士は「型を持たない者が増えること自体は歓迎するが、流派の型には、これまでの排除措置の現場で積み重ねられた経験が詰まっている。基本動作さえ身についていれば十分だという考え方には、正直まだ賛成しかねる」と話した。刀士会の担当者は「流派の型と、家系の有無は本来別の話だ。今回の合格者も、実技試験では特定の流派の型を前提とした採点はしていない」としたうえで、「制度としての公平性と、流派が積み重ねてきた経験の重み、その両方をどう扱うかは、これからも議論が続くテーマだと考えている」と述べた。
■ 刀士会長「五番勝負の先に、今回の顔もいるはず」
日ノ國刀士会の会長・**蒲生 総一(がもう・そういち、66)**は26日の記者会見で、「今年も倍率は高いままだったが、量より質を保てていると考えている」と述べた。10月3日開幕の秋の五番勝負については「今回の108人がすぐに舞台に立つわけではないが、来年、再来年の五番勝負に、今日発表した顔の誰かが立っているはずだ」と期待を語った。既報の若手・水無瀬弦(22)の都市対抗デビューにも触れ、「昨年までの合格者がこうして表舞台に出てくるのを見るのは、この仕事をしていて一番うれしい瞬間だ」と付け加えた。
■ 秋の五番勝負に向けて
秋の五番勝負は10月3日、亀戸の壁面近くの道場を会場に開幕する予定で、既報のとおり東亰刀士会は21日から全体稽古を始めている。今回合格した108人は、当面は各流派・各地域の道場で基礎の稽古を積みながら、排除措置への同行研修に順次入る見通し。刀士会は「合格はゴールではなく現場に立つための最低限の切符に過ぎない」との立場を繰り返し強調している。
■ 記者の視点
倍率20倍を超える狭き門をくぐった108人のうち、これから名前を知られるのはごく一部だろう。それでも、家系という物差しの外から来た一人が加わったという事実は、半世紀近く続く制度に小さな風穴を開けたように見える。「抜かない一年一年」という鹿目の言葉どおり、彼らの仕事ぶりが紙面に載るのは、むしろ何も起きなかった日の積み重ねの先になるはずだ。
