岸見物条例、参考人質疑で応酬 ユメさん「認定制」を逆提案
揺らぎ現場に集まる「岸見物」への対策を盛り込んだ安全確保条例案について、東亰市議会総務委員会は1日、参考人質疑を行った。招かれたのは、フォロワー820万の配信者ユメさん(19)、憲法学者の帯刀郁子・東亰法科大学教授(51)、湾岸倉庫街の町会長ら4人。焦点の「配信収益化制限」規定には賛否が真っ向から分かれ、ユメさんは安全講習の受講を要件とする「認定配信者制度」を逆に提案した。委員会は審議を継続する。
■搬送、8月末で37件
条例案は、規制線内への立ち入りに過料を科すとともに、市が指定する現場周辺で収録された配信の収益化を制限する内容。市によると、岸見物に絡む救急搬送は8月末時点で今年37件となり、審議入り時点の31件からさらに増えた。統計を取り始めた3年前の年間件数は19件で、ほぼ倍のペースが続く。今夏の湾岸部の透過指数高止まりで、規制線の外の人垣が「休日の行楽に近い人出」(市防災担当)になる夜もあるという。
市の担当部長は質疑の冒頭、提案の狙いをこう説明した。「規制線の内側は、いまある制度で守れます。外側の人垣は、いまの制度では誰の持ち場でもない。持ち場を作るための条例です」
■「目的は正当、手段は雑」
参考人質疑では、まず帯刀教授が収益化制限規定を「目的は正当だが、手段は雑」と批判した。
「収益だけを狙い撃ちにしても、人は来ます。収益を申告しない配信に潜るだけです。表現の中身や儲けではなく、場所と距離で線を引くのが筋で、より制限的でない手段の検討が先です」。教授は規定の削除か大幅な絞り込みを求め、「収益化の制限は、行政が『語ってよい現場』を選ぶ入り口になり得る」と付け加えた。
一方、湾岸倉庫街の町会長(68)は「理屈は分からんが、現場は待てない」と実情を訴えた。深夜の人出でごみと路上駐車が増え、8月には救急車が人垣で現場への到着に手間取った例もあったという。「うちの町会は、揺らぎより先に見物で参ってます。誰でもいいから、人垣を割る係を作ってほしい。それが条例なら条例でいい」
■「820万人は、要は学校」
注目のユメさんは、紺のスーツで委員会室に現れた。規制線の外から現場を実況する「岸見物系配信」の代表格は、配信で見せる砕けた口調を封印し、手元の原稿をほとんど見ずに意見を述べた。
「あたしの視聴者は、平均するとあたしより年下です。820万人というのは、要は大きな学校です。学校に必要なのは、校則の前に保健室だと思っています」
その上で、配信者側で業界団体を作り、救護と避難誘導の講習を受けた配信者を認定する「認定配信者制度」を提案した。認定を受けた配信者には、配信画面に規制線の位置と避難経路を常時表示する義務を課し、未認定者の現場配信は動画基盤側の規約で制限してもらう——という枠組みだ。ユメさん自身、今夏から中継の冒頭で必ず規制線の位置を映すことを習慣にしているという。
「規制線の外に立つ人を全員なくすのは、無理です。だったら、いちばん前に立つ人間に、いちばん重い宿題を出してください」
委員の反応は割れた。「自主規制への丸投げは行政の責任放棄だ」との意見の一方、「行政が配信者を認定するのは検閲の入り口になる」との警戒も出て、規制強化派と自由派の双方が新提案への態度を決めかねる場面が続いた。
■採決の見通し立たず
委員会は市に対し、搬送記録の地区別集計と、動画基盤各社への聞き取り結果の提出を求め、審議の継続を決めた。委員長は「賛否より先に、論点がまだ出そろっていない」と述べた。同種の条例は他都市にも例がなく、浪速市議会の担当委員が近く視察に訪れる予定という。
質疑を終えたユメさんを、庁舎前で制服姿の中高生が十数人待っていた。差し出されるスマホに、ユメさんは手を振って応えた。「きょうは配信じゃないから。——ほら、規制線がなくても、ちゃんと並べてるじゃん」
条例案の採決の見通しは、立っていない。



