岸八の枕:孫の嫁入りと三十秒
落語家・柳亭岸八の身辺雑記。先週、ドラマで孫だった女優の結婚会見で、三十秒の祝辞をやった話。
祝儀の噺は短くやるもんだ、と師匠に教わった。長いと、めでたさが薄まる。先週、その教えを三十秒で実演する機会があった。
篠宮ひかりという女優がいる。朝のドラマで、わしの孫をやった。撮影は二年前で、本番の合間にわしの楽屋へ来ては、湯呑みで茶を飲んでいった。尾は、そのころは隠していた。「隠さなくていい」とわしが言うと、「岸八さんは耳を隠してないんですか」と言われた。わしは一世だから、隠すという発想がそもそも無かった。隠すのは、隠せる世代の話だ。
それが結婚するという。相手は九条という俳優で、口数が少ない。会見で四文しか喋らなかったそうだが、わしの見たところ、あの男は四文で足りている。足りない男ほどよく喋る。落語家が言うのだから間違いない。
会見で祝辞を頼まれた。三十秒でやった。会場が沸いたが、あれは噺が面白かったのではなく、本当に三十秒で終わったのが面白かったのだ。世の中の祝辞は長すぎる。三十秒で終われば、それだけで人は笑う。これは芸の秘密だから、あまり広めないでほしい。
孫が嫁に行くというのは、演じただけの孫でも、妙なもので、帰り道に少し寂しかった。潮見橋の商店街で「子守唄まんじゅう」を買って、二つ食べた。一つは自分の分、一つは、隠さなくていいと言った日の分だ。
来春の式には、歌を頼まれるかもしれないが、わしは歌わない。歌うのは白瀬さんの仕事だ。わしは枕をやる。三十秒で。
