剣と行列、窓の向こうに三時間 第5窓「剣の国」で初の長時間観測
亀戸・第三鑑定センター裏の第5定常窓で7日夜、開口が3時間20分続き、稼働以来最長の観測となった。第52系統「剣の国」では城壁沿いの市場と鎧姿の行列が確認され、窓室の外に落ちていた金属の留め具1点を鑑定センター窓班が回収した。
■3時間20分、稼働以来最長の開口
第5定常窓は今年4月の稼働以来、開口時間の短さが課題とされてきた。多くは数分から長くて40分程度で閉じ、写真も観測記録もほかの4窓に比べて乏しい状態が続いていた。7日午後8時11分に開いたこの窓は、しかし3時間20分にわたって閉じなかった。次元調査課によると、記録が残る5窓すべての中でも最長の開口時間だという。「最初は、いつもどおりすぐ閉じると思っていました」と、当直だった窓番(31)は振り返る。「30分を超えたあたりで、これは違うと。記録紙を替える手が震えました」
比較のため、稼働から3年目に入った第1窓「灯しの街」の平均開口時間はおよそ50分、最長でも1時間10分程度にとどまる。次元調査課の担当者は「窓ごとに開口の長さに何らかの傾向差があるのは以前から把握していたが、これほどの開きが出たのは初めて」と話し、系統の違いによるものか、季節や気圧など未知の要因によるものかは「現時点ではまったく分からない」とした。TDA本局の広報担当者は8日の定例会見で「観測体制に異常はなく、通常どおりの手順で記録・回収を行った」と述べるにとどめ、原因の推定には踏み込まなかった。
■市場と行列——「式」の札に似たもの
ガラスの向こうに広がっていたのは、石積みの城壁沿いに連なる市場だった。松明とみられる灯りが等間隔に並び、布を広げた露店らしきものの列に、頭巾をかぶった人影が行き交う様子が観測された。開口から1時間ほど経ったころ、市場の通りを鎧姿の一団が騎乗のまま横切った。隊列は数十人規模とみられ、先頭に旗を掲げた者がいたという。旗の紋様は判読できず、次元調査課は「意匠としての記録は残すが、意味の推定はしない」との立場を崩していない。
一団の中に、腰の帯に木片のような札を下げた人影が複数確認された。第7系統「灯しの街」で観測されている「式」の札と形状が似ているとの指摘が課内であり、両系統の関係は既報のとおり未解明のまま検討課題に挙がっている。窓番は「似ているように見えるが、似ているというのは人間の側の感覚です。向こうにとって同じものかは分からない」と慎重に述べた。
市場の露店には、布や壺のようなもののほか、荷を積んだ荷車を引く大型の動物とみられる影も観測された。荷車の傍らには子どもとみられる小柄な人影もあり、窓番は記録用紙に「子連れの姿あり、追われている様子はない」と書き添えたという。物々交換らしき身振りが遠目に確認されたが、対価として何が渡されていたかまでは判別できなかった。音は厚いガラス越しにほとんど届かず、かすかな喧噪のようなものが伝わった程度だったという。
■初の漂着物、留め具1点
観測終了後の窓際の点検で、外側のわずかな隙間に小さな金属片が挟まっているのが見つかった。長さ3センチほどの、ベルトの留め具に似た形状の金属で、表面に細かい刻印がある。次元調査課はこれを第5窓からの初の窓漂着物として登録し、次元境界管理法に基づき国庫帰属としたうえで、第三鑑定センター窓班に鑑定を依頼した。窓班の担当者は「材質・製法とも、これまでのどの系統とも一致しない。時間はかかるが、来歴の手がかりになるかもしれない」と話す。鑑定は数カ月待ちの見通し。
留め具が見つかった経緯も異例だった。通常、窓漂着物は窓が閉じたあとの定時点検で発見されることが多いが、今回は開口中に窓番の一人が「何かが当たったような、小さな音がした」と申告し、閉口後ただちに周辺を確認したところ見つかったという。次元境界を挟んで物が実際にぶつかる音が聞こえたとされる例はこれまでほとんど報告がなく、次元調査課は「音そのものが向こうの現象か、こちら側の設備の振動かは切り分けられていない」としている。
■言葉は分からないまま
第5窓は稼働からまだ半年に満たず、一般見学の対象にもなっていない。研究者と報道関係者に限られた立ち会いの中で、今回の長時間開口は課内でも異例の扱いとなった。一方で、市場の賑わいや行列の規模から「向こうにとって特別な日だったのでは」との憶測も窓室内で出たというが、次元調査課はこれを明確に否定はせず、かといって肯定もしない。「特別な日かもしれないし、いつもの日かもしれない。分からないことを、分かったふりで書かないのがこの窓の仕事です」と課の担当者は述べた。倫理論争として既報のある「見ていていいのか」という問いも、今回のように長時間・高密度の観測が続くほど重みを増すとみられ、次元調査課は年内に外部有識者を交えた検討会を設ける方針という。
第5窓は一般見学の対象外だが、稼働報道が重なったことで鑑定センター周辺には8日朝、望遠鏡や双眼鏡を手にした市民の姿が数人見られた。センター側は敷地内への立ち入りを認めておらず、警備員が周辺の見回りを強化しているという。窓グッズを扱う民間業者からは「灯しの街」に続く新しい意匠の要望が既に寄せられているといい、次元調査課は「観測記録の公表前に商業利用が先行することのないよう、画像の管理を徹底している」と述べた。
■今後
第5窓は8日朝の時点で閉じており、次回の開口時期は不明。次元調査課は今回得られた映像記録の解析を進めるとともに、留め具の鑑定結果を待って続報を出すとしている。年内をめどに開かれる外部有識者検討会では、第5窓を含む今後の長時間開口への対応方針もあわせて議題にのぼる見通し。戸田輪記者は今回、窓室の外で待機していたが、次回は立ち会いの許可を申請している。
