電源を切れない家族たち ロボット「永代預かり」300台超
役目を終えた共生ロボットを有償で預かり続ける「永代預かり」の利用が増えている。仏具店から転業した常磐堂(京橋)では預かりが300台を超え、新規申し込みは3カ月待ち。法的地位が定まらないまま(既報)、「処分」を選べない家族の受け皿になっている。
■仏具店の棚に、家電の列
京橋の裏通りにある常磐堂は、明治創業の仏具店だ。位牌や香炉を並べていた奥の倉庫に、いまは箱形の共生ロボットが棚三列に並ぶ。介護支援型、家事型、見守り型。人の形をしたものはほとんどない。一台ごとに、紙の札が枠から下がっている。預かり開始の日付と、預けた家の名字だけが書かれている。
永代預かりは2019年に始めた。当初は年に数件だったが、この2年で急に増え、8月末に預かり台数が300台を超えた。新規申し込みは3カ月待ちで、常磐堂は9月から棚をもう二列増やす。
月額制で、預かったロボットには月に一度の「起動日」がある。その日は電源を入れ、家族は面会できる。多くの家族は年に一、二度来るだけだが、起動日そのものは毎月きちんと行う。当主の男性(67)は「位牌と同じです。手を合わせる場所が要る。うちは商売柄、それだけは分かるんです」と話す。
■「まだ決めていない、のままで」
利用者の女性(63)は、母親の介護を最後まで担ったロボットを預けて2年になる。母親が亡くなった後、自宅の居間に置いたままにしていたが、動かすたびに母親の生活の手順が出てくるのが耐えられなくなったという。薬の時間、湯の温度、テレビの音量。
「電源を切る日を私が決めるのは、違う気がして。ここなら『まだ決めていない』のままでいられます」
女性は起動日には来ない。年に一度、母親の命日の前後にだけ倉庫を訪れる。「動いているところは見ません。棚の前まで行って、札の日付を見て帰ります。それで足ります」
別の利用者の男性(45)は、子どもの成長を見守っていた家庭用の一台を預けた。「子どもが独立して、置き場所がなくなった。捨てるという言葉を、家の中で誰も言い出さなかったんです。言い出さないまま二年たって、ここを見つけました」
■起動日の朝
毎月第一土曜が、常磐堂の起動日にあたる。朝、倉庫の照明が入り、当主と従業員2人が棚の端から順に電源を入れていく。一台につき10分。動作の確認と、記録媒体の異常の有無を見る。家事型の一台が、誰もいない棚の前で「おかえりなさい」と言った。当主は札に日付を書き足し、次の一台へ移った。
「反応するのは、こちらが立っているからです。機械ですから」と当主は言う。それでも、電源を入れる順番は毎月同じにしている。「順番を変えると、あとで帳面が合わなくなるので」
料金は大きさで三段階に分かれ、月額は3千円台から8千円台。契約は1年ごとの自動更新で、解約すれば返却される。返却を申し出る家族は年に数件あり、その多くは「引っ越して置き場所ができた」という理由だという。
■法の側は、動産のまま
市の廃棄物行政の担当者は「ロボットは現行法上は動産であり、適正な処理に出すことは可能」と説明する。実際、処理施設は共生ロボットの受け入れ手順を整備しており、記録媒体の消去まで含めた工程がある。それでも持ち込みは年々減っている。担当者は「制度が用意されていることと、家族がそれを選べることは、別の話です」と述べた。
法制審議会では、ロボットに「登録主体」としての地位を与える案が審議されている(既報)。登録主体となれば、所有者が処分を決める際の手続きが変わる可能性がある。常磐堂の当主は成り行きを注視している。「うちの商売は、法律が決まらない隙間にできた商売です。決まれば、なくなるかもしれない。それでいいんです。決まらないから、皆さんうちに来るんですから」
一方、業界には「永代」を名乗りながら数年で廃業した業者もある。市消費生活センターには昨年度、預かり業に関する相談が11件寄せられた。多くは、事業者が連絡不能になったという内容だった。常磐堂は預かり契約に、廃業時の引き取り先をあらかじめ書き込むようにしている。
同業は市内に数軒あり、寺の一部にも受け入れの動きがある。ただし、宗教法人としてどう位置づけるかは定まっておらず、多くは「預かり」の名で有償の保管を行うにとどまる。ある寺の住職は本紙に「読経を上げてくれと言われたときに、断る理由も、引き受ける理由も、うちにはまだありません」と話した。
■生前予約という言葉
常磐堂の予約名簿には、まだ現役で稼働中のロボットの「生前予約」も並び始めている。申し込むのは、多くが高齢の利用者本人だ。自分がいなくなった後、家族に判断させたくないのだという。
当主は名簿を閉じながら言った。「順番が逆なんですよ。ふつうは人が先です。うちの帳面では、人のほうが先に消える予定になっている」
倉庫の照明は、起動日以外は落としている。棚の間を歩くと、紙の札が空調の風で一斉に揺れた。音は、しない。

