岸辺食堂:三点のうちの、しまってあるほう
深川2丁目で飲食店を営む瀬能タカラの連載コラム。検疫委員会の決定の夜、店に集まった常連たちの反応と、開かずの二点をめぐる冗談について。
きのう(16日)の夕方、うちの店のテレビに検疫委員会のニュースが流れたら、カウンターがちょっと妙な空気になった。「1点だけ開けて、2点はそのまま」。常連のおやじさんが「それ、うちの冷蔵庫の奥と同じだな」と言って、みんな笑った。開けるのが怖いんじゃなくて、開ける理由が特にないまま何年も置いてあるやつ、というやつだ。うちにも一つ、賞味期限のとうに切れた贈答用の缶詰がある。
8月の終わりに三点が見つかってから、うちの店の周りは何度もカメラマンや記者さんが行き来した。正直、最初のころは商売としては悪くなかった。取材の合間にビールを飲みに来る人が増えたからだ。でも一月近く経つと、その手の客足も落ち着いて、いつもの常連だけが残る。それがうちにとっては、ちょうどいい。
常連の中には、掃除ロボットの「三号」を連れてくる家族がいる。人間の家族が食べている間、三号はカウンターの隅でじっと充電コードを咥えたまま止まっている。似せすぎ規制のとおり、四角い姿で、顔らしい顔もない。それでも家族は「三号も一緒に来たがってたから」と言う。ロボ法制審がどんな結論を出すにしても、うちの店では三号はもう何年も、ただの常連だ。
「1点だけ開けて、2点は保管継続」。町内会の役員さんが会計のときにぽつりと言った。「あれ、全部を分かろうとしなくていい、って言われた気がしたんだよね」。私はうなずいて、次の注文の煮物を火にかけた。分からないままにしておくことが、この街では時々、いちばん親切なやり方になる。うちの冷蔵庫の奥の缶詰も、たぶんこの先しばらく、そのままだ。
