新人刀士・誉田舞、第5窓の窓室警備に初めて立つ 「抜かないことも、仕事だと分かった」
既報(9月26日)の刀士免許秋試験で、鹿目流・水無瀬流・氷室流いずれの家系にも連ならない初めての合格者として話題になった誉田舞(23)が、28日夜、亀戸・第三鑑定センター裏の第5定常窓「剣の国」の窓室警備に、研修として初めて立った。窓漂着物の解読班(既報24日)が分析を続ける現場でもあり、刀は一度も鞘から出なかった。「抜かないことも、仕事だと分かった」と振り返る。
■ 研修の一環、第5窓の夜に
日ノ國刀士会によると、9月26日の秋試験で合格した108人のうち、各流派・各地域の道場での基礎稽古を経て、排除措置や窓室警備への同行研修に順次入る見通しだったが、誉田舞(23)は28日夜、その第一歩として亀戸・第三鑑定センター裏にある第5定常窓「剣の国」の窓室警備に立った。この日の第5窓は閉じたままで、開口はなかった。誉田の役目は、窓漂着物の解読班(既報10月24日)が引き続き立ち入る研究室の出入りを見守ることと、深夜の交代で詰める窓番との連携の確認だったという。
■ 流派の外から来た合格者
既報のとおり、誉田は鹿目流・水無瀬流・氷室流のいずれの家系にも連ならない、確認できる限り初めての合格者だ。会社員家庭の出身で、大学の一般教養講義がきっかけで刀士を志した。この日は鹿目流の先輩刀士が一人付き添う形での研修で、誉田は「正直、窓室に入るのは初めてで、ガラスの向こうが閉じているだけで緊張した。開いていたら、なおのこと足がすくんだと思う」と話した。付き添った先輩刀士は「型を持たない分、基本動作を丁寧になぞる。周りをよく見ているのが伝わってきた」と評した。
■ 「抜かないことも、仕事だと分かった」
研修を終えた誉田は本紙の取材に「刀士会に入る前は、刀士の仕事といえば排除措置で刀を抜く場面を想像していた。実際に窓室に立ってみると、何も起きない数時間のほうが圧倒的に長く、その何も起きない時間を保つことが仕事なんだと、身体で分かった気がする」と語った。既報(9月26日)で「合格して終わりではなく、これからが本当の意味での稽古」と述べていた言葉どおり、研修初日の感想も控えめだった。「今日は刀を抜く機会すらなかったが、それで良かったと思う」。
■ 鹿目千歳「流派を持たない目で見た窓室」
連載「抜かない刀」を執筆する鹿目流当主・鹿目千歳(41、既報)は、誉田の研修初日について本紙にコメントを寄せた。「排除措置の同行回数は私のほうが多いが、窓室警備は私にとっても特別な現場だ。流派の型を持たずに来た誉田さんが、あの場所をどう見るのか、率直に興味がある」。既報の秋試験発表時にも「流派を持たない者の方が、かえって『抜かないこと』の重みを一から考え直せることもある」と評していたが、29日も「初日の感想を聞いて、やはりそう思った」と付け加えた。
■ 刀士会長「窓室は、抜かない現場の代表格」
日ノ國刀士会長・蒲生総一(66、既報)は「窓室警備は、刀剣携行特例法の職務のうち、抜刀率が最も低い現場の一つだ。誉田さんのような新人がまず体で覚えるべき『待つことの重み』を学ぶには、むしろ良い配置だったと考えている」と話した。研修は当面、月に数回のペースで続く見通しで、誉田は排除措置の同行研修にも年明け以降に順次入るという。
■ 家族の反応「刀を見せてもらったことがない」
会社員家庭に育った誉田の両親は、娘が刀士を志したと知った当初、戸惑いもあったという。父親は本紙の取材に「正直、最初は反対したかった。だが、基本動作を人一倍やり込む様子を見ていたら、何も言えなくなった」と振り返る。誉田自身は「家では刀を見せたことがない。職務中以外は携行できない決まりなので、見せようにも見せられないのだが」と笑い、「初めての配置が、抜かなかった夜だったと話したら、父は少し安心したようだった」と付け加えた。
■ 解読班の現場でもある窓室
第5窓の窓漂着物をめぐっては、ヒンド連邦数理解析班・ヘラスの歴史学者ニコス・ザフィラス氏・音楽教師の岸浦汐氏(74、いずれも既報)による解読班が、記号が2〜4個のまとまりで区切られて並ぶという規則性を確認した段階にあり、意味の解読は続いている。誉田の研修初日は解読班の作業日とは重ならなかったが、次元調査課の窓番は「刀士が交代で立つようになって、こちらも心強い。向こうが開いても開かなくても、見張りがいるというだけで室内の空気が違う」と話した。
■ 他の新人108人の研修配置も分かれる
今回の秋試験合格者108人のうち、窓室警備の研修に入ったのは誉田が初めてだが、刀士会によると、ほかの新人は所属流派の地元道場で基礎稽古を継続中の者が大半で、排除措置の同行研修に入った者はまだいないという。配置の違いは本人の希望と道場側の判断による面が大きく、「窓室は空き枠が少なく、誰もが早く経験できる現場ではない」(刀士会担当者)。誉田自身は「自分が特別に早いとは思っていない。たまたま枠が空いていたのだと聞いている」と控えめに語った。
■ 深夜の交代、窓番との短い会話
研修中、誉田は窓番と短く言葉を交わしたという。窓番は「刀士が来るのは初めてで、最初は何を話せばいいのか分からなかった」と振り返りつつ、「向こうが開くかどうか分からない夜に、黙って並んで立っているだけで、気配が違う。それだけで十分だと分かった」と話した。誉田も「窓番さんが、湯呑みを勧めてくれた。断る理由がなかったので、いただいた」と笑う。次元調査課の慣習として、窓室に詰める者同士が湯呑みを並べるのは珍しくないという。
■ 秋試験の新人たちの行方
既報の108人のうち、獣徴のある合格者6人の一人・沖浦岬(26、漂着二世、既報)は、誉田の研修入りについて「流派の外から来た人が先に窓室へ入ったのは、正直少し驚いた。自分も獣徴が判定の邪魔にならないかという不安を抱えて受験したので、誉田さんの歩みは他人事に思えない」とコメントを寄せた。刀士会は、108人それぞれの研修配置の進み方を今後も追跡する方針で、「量より質」という蒲生会長の方針どおり、配置を急がせることはしないという。
■ 記者の視点
流派を持たない刀士が、どんな現場に初めて立つのかは、本紙としても注視してきたテーマだった。排除措置の抜刀の場面ではなく、何も起きない窓室の夜だったことは、むしろこの制度の実像に近い。「抜かないことも、仕事だと分かった」という誉田の一言は、既報の鹿目の言葉——「本当に大事なのは、免許を持ってから抜かずに過ごした一年一年の方」——と、静かに重なる。






