第5窓「剣の国」、向こうから小さな筒 史上初の「意図して送られたとみられる物」を回収
TDA次元調査課は20日未明、第5窓「剣の国」の開口中、窓の向こうの人物が小さな筒状の物を窓へ向けて投げる動作を直接観測し、筒が境界を越えて窓室側に落下、回収したと発表した。これまでの「札を掲げる」行動とは異なり、物が意図して送られたとみられる事例としては史上初めて。中には絵と文字のある紙が収められていたが、解読は始まったばかりで、次元調査課は「意味づけは急がない」としている。
■ 午前4時8分、45分間の開口
TDA次元調査課によると、第5窓「剣の国」は20日午前4時8分に開口し、53分間にわたって観測が続いた。既報(19日)のとおり、窓の向こうの市場には開口直後から人々が集まり、札を窓の方向へ掲げる行動がこれまでと同様に確認された。窓室で観測にあたっていた第三鑑定センター窓班の梅津肇技官(42)によると、変化があったのは開口から約30分が過ぎたころだったという。
「市場の端、札を掲げる人垣から少し離れたところに、一人だけ違う動きをする人物がいた。札ではなく、手のひらに収まるくらいの細長い物を両手で持って、こちらに向けて投げる動作をした」。梅津技官はそう振り返る。投げられた物は弧を描いて窓の境界を越え、観測記録装置の真下、漂着物を受け止めるための回収トレーに落下して静止した。
■ 「投げた」——観測史上初めて見た動作
次元調査課は20日朝の会見で、今回の事例を「向こうの人物が、明確にこちら側へ向けて物を投げる動作を直接観測したのは、五つの定常窓を通じて初めて」と説明した。既報(5日)の「気づいている兆候」は、札を掲げる、灯りを向けるといった、窓への反応がまず確認され、のちに物が見つかるという順序だったのに対し、今回は投げる動作そのものを観測員がその場で目撃し、落下までを連続して確認できた点が異なるという。次元調査課の担当者は「兆候から一歩進んだ段階だとは思うが、だからといって意思疎通が証明されたわけではない。断定は避ける」と繰り返した。
回収された物は、長さ約13センチの筒状の物体で、素材は乾いた角状の材質とみられ、両端を細い紐で結んだ布のようなもので塞いであった。第三鑑定センターに搬入され、担当技官が紐をほどいたところ、中から折りたたまれた一枚の紙が出てきたという。既報どおり、これまでの窓漂着物——灯しの街の札や粘体の抜け殻など——は、開口後に窓室の床や回収トレーで「見つかる」事例がほとんどで、落下の瞬間を観測員がその場で見届けたのは今回が初めてだという。
梅津技官によると、投げた人物は年齢・性別とも判別できず、投げたあとすぐに札を掲げる人垣の中へ紛れて見えなくなった。「追おうにも、こちらからは手が出せない。見送るしかなかった」と振り返る。次元境界管理法に基づき、回収された筒と紙はただちに国庫帰属の手続きが取られ、第三鑑定センターの保管棟へ搬送された。
■ 筒の中身は絵と文字のある紙
第三鑑定センター窓班によると、紙には簡単な線画とみられる絵と、文字のような記号が並んで記されていた。絵の内容、記号が何を表すかはいずれも現時点では不明で、センターは「判読できる段階ではない。紙の素材・繊維の分析から始める」としている。同センター主任鑑定官・蓑輪誠一氏(48)は「窓漂着物の鑑定は、これまでも数カ月単位で時間がかかってきた。今回は投げられた経緯が分かっている分、手がかりは多いが、急いで答えを出すものではない」と述べた。
既報(9月26日)の第1窓「灯しの街」の「式」の札との類似を指摘する声も課内にあるというが、次元調査課は「書体や筆致に似た印象を持つ職員はいるが、比較できる段階にない。第5窓と第1窓を安易に結びつけない」との立場を崩していない。第31系統「隣の世界」のように地理的・文化的な近さをうかがわせる既報もあるが、今回の紙との関連づけは行わないという。
■ 検討会は議題8件目に、解読は持ち越し
今回の事例は、11月上旬に初会合を予定する外部有識者検討会(座長・湾洋大学教授、梶浦悦子氏)の議題に追加され、既報(16日)の7項目から8項目目となる。分析を担当する柚木透技官(31、既報)は「札を掲げる行動を追ってきた身からすると、今回はさらに踏み込まれた印象がある。ただ、踏み込まれたことと、向こうの意図が分かることは別だ」と話した。紙の解読自体は11月以降に持ち越される見通しで、次元調査課は「年内に答えが出る種類の作業ではないと考えてほしい」としている。梶浦座長はコメントを寄せ、「委員会として急いで結論を出す場ではないが、議題が一つ増えたことの重みは受け止めている」と述べた。
音楽教師で漂着一世の岸浦汐(74、既報)は取材に「自分たちが流れ着いた時、何かを投げて寄越す者などいなかった。向こうに、こちらへ届けたいと思う誰かがいるというだけで、胸がざわつく」と複雑な表情を見せた。既報どおり、岸浦の「岸の子守唄」と第5窓の録音の節回しとの類似については、依然として断定できる材料がないままだという。
■ 柚木透「兆候の先に、やっと一つ事実が増えた」
既報どおり札を掲げる行動の分析を続けてきた柚木技官は、今回の件について「正直、いつまでも『兆候』のまま時間が過ぎていくのではと思っていた時期もあった。向こうが何か送ってくる、という段階まで来たのは、この面を担当してきた者としては率直に大きい」と心境を語った。一方で「大きいと感じることと、浮かれることは別だ、と自分に言い聞かせている」とも付け加え、五原則どおりの慎重さを崩さなかった。
次元調査課は20日、今回の記録を含む第5窓の観測ログを非公開のまま内部資料として保全する一方、紙と筒の実物は公開・非公開を含め今後の扱いを検討するとしている。窓室見学の抽選倍率への影響も見込まれ、次元調査課は「見学者の安全と調査の両立を優先する」と述べるにとどめた。
■ 鑑定センター、この日はもうひとつの来客も
筒が回収された第三鑑定センターは、20日午後、瑠海王国国王カイエ3世(34)の視察先でもあった。既報(16日)どおり、視察は保管棟の運用状況の説明にとどまり、窓漂着物を含む個別の収蔵品は非公開のままとされた。外務省筋は「今朝回収されたばかりの物も、他の収蔵品と同じ扱いになる。王室の血筋がどうであれ、手続きの外は作らないという方針に変わりはない」と述べ、来訪との時期的な重なりはあくまで偶然であることを強調した。窓の開口そのものが制御不能である原則にも、もちろん変更はない。










