仔が、来た 第4窓のガラスを越え、王子で保護観察
仔は、窓の向こうに留まらなかった。城北・王子の丘にある第4定常窓「巨獣の原野」で5日未明、既報(10月28日)で窓に近づく姿が初めて観測された巨獣の仔とみられる個体が、観測用ガラスを突き破って窓室側に越えてきたことが、TDA次元調査課への取材で分かった。ガラスの破片で当直の窓番1人が重傷を負った一方、仔は体長約2.4メートルで生きたまま収容され、TDAは排除措置を発動せず「保護観察」とする方針を即日示した。定常窓を越えて生物がこちら側に現れるのは史上初めて。
■ 午前4時18分、ガラスが割れた
第4定常窓「巨獣の原野」(第63系統)は5日午前3時51分に開口した。TDA次元調査課によると、既報(10月28日)で観測された仔の接近と同じように、当初は窓の手前30メートルほどで足を止める様子だったという。しかし午前4時18分ごろ、仔は再び歩き出し、今度は止まらなかった。観測用ガラスに体をぶつけるようにして進み、ガラスは中心部から放射状に割れ、人がくぐれるほどの穴が生じた。
当直だった窓番・高木渉さん(たかぎ・わたる、34、漂着二世〈兎系〉、次元調査課所属)は、割れたガラスの破片を頭部と右肩に受けて重傷を負い、救急搬送された。意識はあるが、詳しい容態は公表されていない。次元調査課は通常、窓番個人の氏名を明らかにしない方針を取っているが、史上初めての事案であることを踏まえ、本人と家族の了解を得て今回は氏名を公表したという。もう一人、同じ窓室にいた先任の窓番は軽傷で、仔の侵入直後に高木さんを室外へ連れ出したと記録されている。
■ 体長約2.4メートル、生きて収容
ガラスを越えてきた仔は体長約2.4メートルで、既報の「大人の個体の十分の一ほど」という大きさの見立てとおおむね一致する。TDA生物管理課は窓室近くにあらかじめ用意していた移送用の囲いで仔を保護し、同日中に専用の収容施設へ移した。生物管理課の担当者は「暴れることはなく、むしろ戸惑っているように見えた」と話す。健康状態は「目立った外傷はなく、安定している」という。
■ 排除措置ではなく「保護観察」
生物管理課は当初、既報(9月2日、枝川)の特定漂着種に準じた排除措置の発動を検討したが、同日中に見送りを決めた。TDA局長・火浦誠は緊急会見で、「対象は幼い個体で、こちらに敵意を示した様子もない。枝川のときとは状況が違う。排除措置ではなく、保護観察という枠組みで対応する」と述べた。保護観察の内容について担当者は「生物管理課と次元調査課が共同で24時間体制の観察を行い、栄養状態や行動を記録する。収容期間や今後の扱いは、専門家の助言を踏まえて検討する」と説明するにとどめた。
次元調査課の梶浦悦子座長(58、湾洋大学教授、既報)は「仔が窓に近づいたと報じた10月28日の時点で、見る対象が子どもに広がったことの重さについて触れたが、まさか越えてくるとは思わなかった」と述べ、「原理も意図も分からないまま、目の前に生きた個体がいる。これまでの議論の前提が変わった」と語った。11月の外部有識者検討会で優先議題とする方針。
■ ガラスは、なぜ割れたのか
定常窓のガラスは、これまで巨獣の歩みで窓室の湯呑みが動くことはあっても(既報9月7日・14日)、割れたことは一度もなかった。次元調査課は「ガラスの強度に問題があったのか、仔の体当たりが想定より強かったのか、あるいは窓そのものの性質に今回だけ変化があったのか、現時点では切り分けられない」としている。窓機のガラスを供給する東亰精密光学は同日、「原因究明にTDAと全面的に協力する」とのコメントを出した。
一方通行・制御不能という基本原則そのものに変化があったわけではないと次元調査課は強調する。「向こうから来ることは、これまでも稀にあった(漂着物・漂着民)。生きた大型の個体が、定常的に観測している窓を通って来たのは初めてというだけで、ルールが破られたわけではない」。なぜ「今回は止まらなかったのか」は、未解明のまま温存するという。
■ 窓番たちの声
同僚の窓番の一人は「高木は、仔が最初に近づいた10月27日の夜にも当直だった。『また来るといいな』と、あの夜は笑って言っていた」と振り返った。「来てほしいと思っていたものが、まさかガラスを割って来るとは、誰も思っていなかった」。王子の丘の窓室には、他の窓と同じように窓台に湯呑みが並んでいたが、今回は割れたガラスの破片とともに床に落ちていたという。次元調査課はこれも記録に残すとしている。
■ 窓室の設計と、これまでの想定
第4定常窓の窓室は2025年12月の稼働時、巨獣の歩みによる振動を想定して設計された。既報(9月7日・14日)のとおり、これまでの振動は窓台の湯呑みが数センチ動く程度にとどまり、ガラス自体への衝撃は想定の範囲外だったという。TDA施設担当者は「振動への耐性は検証していたが、個体がガラスに直接触れる、あるいは体当たりするという状況は、設計段階の想定に入っていなかった」と認めた。他の4窓についても、同様の想定の見直しを進めるとしている。
第5窓「剣の国」や第2窓「機構の海」など、他の窓でも窓機のガラスは同じ系列の製品が使われている。次元調査課は「今回の事案を踏まえ、全窓のガラスについて緊急点検を行う」と発表した。点検は今週中に完了させる方針で、異常が見つかった場合は一時的な閉室も検討するという。
■ 収容先の様子
仔が移送された専用の収容施設は、既報の枝川の事案などで使われてきた生物管理課の施設とは別に、今回のために急きょ確保された一室だという。担当者は「鳴き声や行動のパターンから、向こうの集落で見られた個体と同種とみられるが、学術的な分類はこれから」と説明した。給餌については「何を食べるのか分からないため、まずは水分のみを与え、反応を見ている」とし、専門家の助言を仰ぎながら慎重に進める方針を示した。
収容施設の前には、既に取材陣や関係者が詰めかけているが、内部の様子を撮影することは認められていない。TDAは「仔の状態が安定すれば、節度を保った範囲で写真を公開する可能性はある」としている。
■ 分かっていること/分かっていないこと
- 分かっていること: 仔は体長約2.4メートルで生きて収容され、健康状態は安定。ガラスは中心部から割れ、窓番1人が重傷。TDAは排除措置ではなく保護観察を選択した。 - 分かっていないこと: 仔が立ち止まらなかった理由。ガラスが割れた物理的な原因。仔が単独で来たのか、群れの意図が関与したのか。保護観察後の扱い(収容継続か、別の対応か)。
TDAは今後、収容した仔の状態と、窓室の復旧状況について続報するとしている。







